君は僕の運命 最終話君は僕の運命 最終話「ねえ、やりすぎなんじゃない。」 揺はベッドに横たわってニヤニヤと笑っている。 隣のベッドには点滴を腕に刺したビョンホンがニコニコと笑って足だけバタバタ運動させている。 「ちょっと・・・暴れると怒られるわよ」 「大丈夫だよ。これくらい。ちょうど取材続きで疲れてたし。揺と一緒だし。元気100倍位出そうだ。」 そういうとビョンホンはゲラゲラと笑った。 「ねえ・・ビョンホンssi・・・」 「ん?」ビョンホンは真剣な顔で問いかける揺をにっこりと笑って見つめた。 「何だかそんな嬉しそうに見つめられると緊張するな・・。あのさぁ・・ご飯だけはちゃんと食べてね。他に何も望まないから。」 「何だか変なお願いだな。浮気しないで。とかずっと傍にいてとかがいいよ。」 ビョンホンはそういうと口を尖らせて笑った。 「じゃ、浮気はしないで。」 「それだけ?」不満そうにビョンホンが答える。 「うん。それだけ。だってあなた、私がずっと傍にいてなんて言ったらもうソウルに帰らないつもりでしょ。」 「何でわかったの?」 驚いたようにビョンホンが言った。 揺は黙って呆れたように首を振った。 「やっぱり、揺と俺は繋がってるんだなぁ・・」 嬉しそうに彼がつぶやいた。 そういう問題じゃなくてさ・・・・揺は心の中でつぶやきながら先日のワンモの電話を思い出していた。 「揺ちゃん、具合どう?」 心配そうな声が電話口から流れる。 「すいません。ワンモさん、それじゃなくても大変な時期なのに私のことまで心配かけてしまって・・」 すまなそうにそう口にする揺。 「本当に困るんだよね。だから早く元気になってもらわないと」 その冗談めいた言葉からは切実さと一緒に温かさも伝わってくる。 「はい。早く元気になりますね。」 揺は頷きながら答えた。 「それから・・・」 彼は言葉を濁した。 「いよいよ・・ですか」 揺が言葉を繋いだ。 「ああ。なかなかあいつの時間取れなくなるか・・たくさん取れるか・・まだわからないけど・・・仕事以外も大変になるなことだけは間違いない。」 「時間たくさん取れるようじゃ困りますね。忙しくて会う暇がないくらいが私も早く病気を治そうって気になりますから。私に気兼ねしないでバンバン仕事入れていいですよ。」 「揺ちゃん・・」 「もう。ワンモさんが頼りなんですから。そんな。鬼になってびしびしやってください。」 「ああ。わかったよ。奥さんからのお許しも出たから。心置きなく仕事入れるよ。彼からは何か聞いてる?」 「いいえ。私が人の面倒みられる状況じゃないの彼が一番よくわかってますから。何も。本当は聞いてあげて楽にしてあげられると一番いいんですけど。ごめんなさい」 「いや。揺ちゃんはまずは自分のこと考えて」 「はい。もし彼が帰りたくないって言ったらトランクに入れてでも送り返しますから。ご心配なく」 揺は笑って冗談を言った。 「・・・・・・」 電話口の向こうの彼は笑っていなかった。 「本当に荷造りが必要になるかもよ」 ワンモは受話器の向こうで大きなため息をついた。 「わかった。じゃあ、帰るけどまたすぐ来るから」 ソウルへ帰るよう諭す揺に向かってビョンホンはそう言った。 「だから・・・仕事あるでしょ。いろいろ。」 「あるけど・・・いいんだよ。任せてあるから。」 「任せてあるから・・ってそんな無責任な。だめよ」 「だって・・今一番心配なのは揺のことなんだから仕方ないだろ。他のことは俺じゃなくても何とかなるけど揺のことだけは人任せにしたくないんだ」 「・・・・それは嬉しいけど・・・嬉しくない」 揺は怒って彼から顔を背けた。 「揺・・」 「ビョンホンssi・・帰ろうよ。ね?私は大丈夫だから。いつでも一緒だって言ったじゃない。」 「あの時はすぐまた会えるってわかってたから。もう決めたんだ。しばらく休むって。」 「だめ。そんなの絶対だめ。認めません。」 「揺、揺は僕と一緒にいられて嬉しくないわけ?」 「全然嬉しくないっ!」 揺はそう叫ぶと頭から布団をかぶった。 そして布団の中で考えた。 彼のために自分が出来ることはなんなのか・・・ 「え?ソウルで治療したいってどういうことだよ」 晋作は揺の突然の申し出に声を荒げた。 「だから・・・彼が帰らないから私がソウルに行くんだってば」 「お前、行くんだってば・・・って言ったって・・。正気の沙汰じゃないよ。お前は曲がりなりにもがん患者なんだぞ。わかって言ってるのかよ」 イライラしながら晋作は答えた。 「そう。軽度の。自宅療養できるがん患者。だから頼んでるの。ね、晋さん。たぶん私も彼といた方が免疫力上がる気がするの。だからお願い一緒にいさせて。ちゃんとご飯食べるし、薬もちゃんと飲むから。ちゃんと病院にも通う。こっちにも定期的に帰ってくるから。手術も嫌がらないでちゃんとやるから。」 「・・・・・」晋作は頭を抱えた。 言い出したら聞かない揺。 おそらくアイツも言い出したら聞かない。 揺を一緒に返さなければ日本に居座るつもりだろう。 「全く・・・・お前らバカか?」 晋作は呆れたようにつぶやいた。 「薬は必ず欠かさず飲むこと。発熱などの副作用が出たら自分で判断しないできちんと病院で見てもらうこと。一応コイツのつてであっちの医者ともコミュニケーション取れてるから。ただちょっとでも悪化したら即強制送還だからな。一ヶ月に一回は必ず戻ってきてきちんと精検受けるように。ひとつでも約束破ったら・・・死ぬと思え」 晋作の言葉はいつも以上に厳しかった。 「晋さん・・・・」それまでにこやかだった二人の表情が一瞬にして曇った。 「すいません・・」ビョンホンが謝った。 「悪いと思うならさっさと帰ればよかっただろ。全く二人とも強情で手に負えない」 晋作は手に持っていたカルテを無造作に閉じた。 「俺がたまに監視にいく。文句あるかっ!」 晋作は二人を睨んだ。 ビョンホンと揺はほっとして二人で揃って首を振るとうつむいて目をそっと合わせ微笑んだ。 「心配だわ・・お母様に迷惑おかけするかと思うと」 あれから数日後、空港のロビーで綾がつぶやいた。 「大丈夫です。母は薬膳の材料を用意して手ぐすね引いて待ってますから。もう揺は娘同然ですし。母に感謝されているくらいなんですよ。よくごねたって。」 揺を迎えにきたビョンホンはそういうとゲラゲラと笑った。 彼は片方の腕で揺の腰をしっかりと支えもう片方の手は彼女の手をしっかりと握っている。 「お父さん、お母さんご心配かけてすいません。でも、揺さんは僕が責任持ってお預かりしますから」彼はそういうと深々と頭を下げた。 「ビョンホン君、わがままな娘だがよろしく頼むよ。何かあったらすぐ迎えに行くから」 幸太郎はそういうとハンカチで目を拭った。 「お父さん・・もう嫌ね。今生の別れじゃあるまいし。心配すると禿げるわよ。」 揺はケラケラと笑った。 「それくらい悪態がつければ大丈夫だな。」 幸太郎は笑ってそういうと揺のおでこを指でつついた。 揺の明るい笑顔をみて誰もが確信していた。 きっと揺は元気になる。これが一番いい選択だと。 「じゃ、行こうか。大丈夫?揺」 彼はやさしく問いかけた。 「え?ダメ。おんぶして。ビョンホンssi」 悪戯っぽい目で甘えるように彼女が言うと 「はいはい」 ビョンホンは笑ってそう言って軽々と揺を背負った。 周りの人々が驚いて見つめる中 二人は幸せそうに微笑んで搭乗口に向かって歩いていった。 |